2016年7月、ジャーナリスト・菅野完氏は、著書『日本会議の研究』の出版にあわせ、外国特派員協会(FCCJ)で記者会見を行いました。
当時、海外メディアでは「日本会議」が安倍政権を支える謎の宗教団体、あるいは国家神道復活を目指す黒幕組織として紹介されることも少なくありませんでした。
しかし、菅野氏はその見方に対し、冒頭からこう切り込みます。
「政権を操る黒幕がいる、あるいは国家神道を復活させたい勢力がいるという印象から日本会議を書くと、面白い記事は書ける。しかし、それは少し子どもじみた陰謀論だと思っています。」
そして続けて、
「そんなやつおらへんちゅうねん。冷静に事実だけ見ていかんとあかんでしょ。」
と語りました。
この言葉は、この記者会見全体を貫くメッセージでもあります。
この記事の目次
「誰が操っているのか」ではなく、「どんな組織なのか」
菅野氏は、日本会議を理解するには陰謀論ではなく、組織の実態を見る必要があると説明します。
当時の安倍政権では、
- 閣僚のおよそ8割が日本会議系議員懇談会に所属
- 全国約1,300人の地方議員が日本会議地方議員連盟に所属
- 集団的自衛権を「合憲」とした著名な憲法学者3名も、日本会議または関連団体の幹部だった
といった事実を紹介し、日本会議が政界へ一定の影響力を持っていたことを示しました。
「神道団体」だけでは説明できない
海外では、日本会議を神道系団体として説明する記事も多く見られました。
しかし菅野氏は、
日本会議を構成しているのは神社本庁だけではない。
と指摘します。
会見では、
- 神道系団体
- 仏教系団体
- 新宗教
- キリスト教系団体
- 保守系市民団体
など、多様な組織が参加していることを紹介しました。
つまり、日本会議は単一宗教の政治団体というよりも、保守的な価値観を共有する様々な団体のネットワークとして理解すべきだというのが菅野氏の説明です。
全国規模で行われた憲法改正運動
菅野氏は、日本会議の運動力にも注目しています。
2015年、日本武道館で開催された憲法改正集会では、全国各地から大型観光バスで参加者が集まり、武道館を埋め尽くす規模だったと説明しました。
さらに、
- 全国31都道府県議会で憲法改正を求める請願が採択
- 国会議員422人が関連署名に参加
- 署名は700万人規模へ拡大
といったデータを示し、「草の根運動」としての組織力を紹介しています。
菅野氏が見た「共通項」
興味深いのはここからです。
日本会議は公式には、
- 皇室の尊重
- 憲法改正
- 愛国教育
- 歴史認識
- 伝統的家族観
などを掲げています。
しかし菅野氏は、
「本音はそこにはない」
と分析します。
日本会議の活動年表を振り返ると、
- 選択的夫婦別姓への反対
- 男女共同参画への反対
- 子どもの権利条約への反対
- 従軍慰安婦問題への反発
など、「○○反対」という運動が数多く並んでいることを指摘しました。
「日本会議って、日本のおっさん会議なんじゃないか」
会見で最も印象的だった言葉があります。
「日本会議って、日本のおっさん会議なんじゃないか。」
かなり刺激的な表現ですが、菅野氏が言いたかったのは、日本会議だけを特殊な存在として切り離すことではありません。
女性や子どもの権利を軽視する価値観は、日本社会全体にも根強く存在しており、日本会議はその一つの表れではないか──という問題提起でした。
さらに菅野氏自身も、
「僕の中にも日本のおっさんがいます。」
と語り、自らもその価値観から自由ではないことを認めています。
だからこそ、
それを批判的に見つめ、理性的に考えることが、この本を書いた理由でもある。
と締めくくりました。
この会見を見ていて、私自身は菅野さんの最後の総括が一番心に残りました。
日本会議には、神道だけではなく、仏教系、新宗教、キリスト教系など、さまざまな宗教団体が参加しています。
それぞれ教義も歴史も違う団体が、一つの運動体としてまとまる。
その共通項を菅野さんは、
「女子どもは黙ってろ」
という価値観ではないか、と表現しました。
私はこの話を聞いたとき、不思議なくらい腑に落ちたのです。
これまで私は、
「どうして女性はこんなに生きづらいんだろう。」
と思う場面が何度もありました。
仕事をしても正当に評価されない。
同じように働いても昇進しにくい。
十分な賃金が得られない。
結婚や出産を前提にキャリアを見られる。
もちろん、私自身の能力や努力の問題もあったでしょうし、景気や雇用環境など様々な要因があります。
それでも、「女性だから」という理由で不利になる場面が、この社会には確かに存在してきたのではないか。
そう考えると、自分の人生で経験してきた違和感が一本の線でつながったような気がしました。
だから私は、この会見を「日本会議を知るため」だけではなく、日本社会のジェンダー構造を考えるきっかけとして、多くの人に見てもらいたいと思っています。














