
午後3時に、仕事を止める——韓国「#PayMeToo」が問いかけること
「3時以降は無給で働いている」。そんな怒りを可視化するために、韓国の女性たちは午後3時ちょうどに職場を出た。賃金格差を「数字の問題」から「身体の問題」へ変えた運動を振り返る。
2019年3月8日、国際女性デー。ソウルの光化門広場に、308人の女性労働者が集まった。彼女たちは午後3時に職場を出て、街頭でパフォーマンスを行った。その名は「#PayMeToo(私にも払って)」。性暴力告発の#MeToo運動になぞらえ、今度は賃金という名の不正義に声をあげたのだ。
なぜ「午後3時」なのか
このアクションには、明確な根拠がある。統計庁のデータによれば、韓国の女性の賃金は男性の約64%。つまり、9時から18時まで同じ時間働いても、女性は3時間分の賃金を実質的に受け取っていないに等しい——という計算だ。「3時以降は無給労働だ。私たちは拒否する」。午後3時の退勤は、抗議であり、数字の体感化でもあった。
31%
OECDで最大の
男女賃金格差(2025年)
71%
男性賃金に対する
女性の賃金割合(大企業・2024年)
43%
非正規雇用の
女性労働者割合
格差は数字だけの問題ではない
集会で告発された内容は、単純な賃金の低さにとどまらなかった。大手銀行が採用試験で女性を組織的に排除していたことが発覚したにもかかわらず、科された罰金はわずか500万ウォン(約50万円)。清掃労働者の代表は「16年間交渉を続けても、賃金は最低賃金ギリギリのまま」と語った。
研究者たちは、格差の要因を複合的に分析する。男女の学歴・年齢差で説明できる部分もあるが、「女性であるというだけで低く抑えられている部分」が約31%存在するという。加えて、結婚・出産・育児によるキャリアブレーク(経歴断絶)は、女性が非正規職に追い込まれる構造的な入口にもなっている。
格差の最大要因として最も多くの人が挙げたのは「男性が稼ぎ手、女性が介護者」という伝統的なジェンダー規範(2025年調査・31.1%)。賃金問題は制度だけでなく、社会の「当たり前」の中に埋め込まれている。
運動の系譜:#MeToo から #PayMeToo へ
運動の系譜
#MeToo から #PayMeToo へ
韓国で#MeToo運動が急速に拡大
検察官・俳優・政治家など各界での性暴力告発が相次ぐ。女性が声をあげる社会的な空気が生まれる。
国際女性デー「3時ストップ」デモ
「3時ストップ早期退勤デモ」を全国で展開。光化門広場に308人の女性労働者が集結し、賃金格差に抗議するパフォーマンスを行う。
国際女性デー「3時ストップ」デモ(再び)
女性組合員がソウル中心部でジェンダーギャップ是正を訴える。運動が継続的な慣行として定着。
雇用平等賃金開示制度、民間へ拡大へ
韓国政府が民間企業にも賃金開示を義務付ける制度の整備を発表。運動が政策変化を引き出しつつある。
この運動が示したのは、数字を「体感」に変換する力だ。「女性の賃金は男性の64%」という統計は重要だが、それだけでは人を動かしにくい。午後3時に一斉退勤するという行為は、その抽象的な数字を日常の場面に置き直し、誰もが「おかしい」と感じられる形に変えた。社会運動における「可視化の戦略」として、今でも参照される事例だ。
韓国の動向は、日本にとっても他人事ではない。日本の男女賃金格差もOECD諸国の中で依然として大きく、同様の構造——非正規雇用への集中、キャリアブレーク、採用段階での差別——が指摘されている。「3時以降は無給」という告発は、国境を越えて問いを投げかけている。













