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2021年の最後に、観てよかった〜〜〜〜〜と思えたアニメ作品があります。
「
浦沢直樹先生原作のサスペンス作品。
ネタバレ注意
MONSTER あらすじ
1986年、天才的な技術を持つ日本人脳外科医・Dr.テンマは、西ドイツ(当時)・デュッセルドルフのアイスラー記念病院に勤め、ハイネマン院長の娘エヴァと婚約し、ゆくゆくは外科部長から院長という出世コースを掴みかけていた。医師として漠然としたジレンマを感じつつも、深く考えることなく手術を重ね、研究に打ち込んでいた。そんなある日、頭部を銃で撃たれた重傷の少年ヨハンが搬送されてくる。Dr.テンマは、院長の命令を無視してオペを執刀し、ヨハンの命を救う。しかしそれが院長の不興を買うなどの結果となり、院内の政治力学によって、テンマの順風な状況は一変し出世コースから転落する。そんな中、院長、外科部長らの殺害事件が発生。同時に、入院中だったヨハンと彼の双子の妹が失踪する。
1995年、外科部長となり職務に励んでいたテンマの前に、美しい青年に成長したヨハンが現れる。テンマの患者ユンケルスを目の前で何の躊躇もなく射殺し、過去の殺人を告白するヨハン。殺人鬼を蘇らせてしまったと自らの責任を感じたテンマは、怪物ヨハンを射殺するために、ヨハンの双子の妹アンナに再会することを企てる。殺人犯の濡れ衣を着せられ、キレ者のルンゲ警部に目をつけられたテンマは、ドイツ国内を逃亡しながらヨハンを追跡する。
洋画のハリソン・フォード主演の「逃亡者」(1963年)ようなイメージで、主人公が殺人事件の犯人と疑われ逃亡しながら真犯人を探す。みたいな展開になっています。
MONSTERのテンマが逃亡・真犯人であるヨハンの追跡の旅の途中で出会った人を助けたり、自分も人の優しさに救われる体験を通して
悲しいことや憤ることが山ほど起きるこの世界で、どうやったら人との愛や思いやりを忘れないでいられるだろうか。
と考えることが多くなりました。
この記事の目次
コロナ危機、戦争、社会の底が抜けてしまった今、MONSTERを観てよかった
今の時期にこの「MONSTER」を観てよかったと思いました。
この2020年にコロナ禍に突入して約二年間、家にいることが多くて政治や社会について悲しかったり怒るようなネガティブなニュースをたくさん見て、自分がどんなにあがいても、世界は変わらないものなのかなと思って塞ぎ込んでいました。
それこそ、今の世界では新型コロナウイルスの感染症でたくさんの人が亡くなったり
国と国が戦争を始めて、自分が暮らしているこの国も巻き込まれていってしまうのではないかとか
国内で起きる他人種やマイノリティを排外するようなヘイトの傾向を感じたり
一番弱い子どもたちや弱い立場の人々が苦しい思いをしているとか。。。
こんな混乱のなかで、どうやって自分は個人として善く生きていけばいいのかな。と悩んでいたときに
MONSTERに登場するグリマーさんという一人のキャラクターに大きく救われたように思います。
「超人シュタイナー」グリマーさん
グリマーさんは511キンダーハイムという戦争孤児などを集めた非人道的な教育を行う孤児院の出身で、そこでの教育で自然な感情を失ってしまいます。
孤児院を出てからスパイとして働き、その後調査を進めるうちにヨハンやテンマのことを知り協力するようになるのですが
彼が511キンダーハイムで過ごした経験が彼の人生に影を暗く落としているけれども、小さな子どもを救ったり、人間らしい自然な自分の感情を取り戻していく過程が本当に素晴らしかったと思います。
感情を取り戻したグリマーさんが、過去に感情を失っていた頃に得ていたはずの感情が溢れ出てくることを
「昔の自分からの手紙のようだ」って言うのが、、グッときますね。。
これはMONSTERを書いた浦沢直樹さんからの
「自分を殺して生きるしかなかった暗く悲しい時期が本当に長くきみの人生を苦しめたとしても、生き直すことができるよ」
というメッセージのようでとてもグッときました。
この世ってすごく残酷なことが多いじゃないですか。
自分で生まれる場所は選べないし。
子どもはとても弱い生き物だし。
その苦しかったこと、悲しかったこと、どうにもならなかったことなどもたくさんあるけど
それ以上に、人とつながりあえたこと、分かり合えたこと、思いやりや愛を持って相互に接することができたこと、
そういうものたちが、また前向きに生きるためのパワーや、他の誰かを守ってあげられるパワーになるんだよ。って言われているように思いました。
グリマーさんを演じたのは田中秀幸さん。
穏やかなときの温和な声色、心の奥の芯がしっかりしている部分を感じられます。素敵ですよね。
MONSTERのテーマ
ドイツおよびチェコを舞台としたサスペンス作品。冤罪、猟奇殺人、医療倫理、病院内での権力闘争、家族の在り方(親子愛、兄弟愛)、人間愛、児童虐待、アダルトチルドレン、トラウマ、東西冷戦構造、ベルリンの壁崩壊の以前以後のドイツ社会などをテーマとしている。
MONSTERでは様々なテーマが盛り込まれている作品です。
とくにキンダーハイムという大人が子どもたちの尊厳を奪うような計画や施設をつくっていたことなど、
「子どもは誰のものか?」
「子どもは親のものか?」
「親がいない子は誰のものか?」
そんな問いもあちこちに散りばめられていたように思います。
子どもの人権について考えるきっかけも多かったです。
純真無垢な子どもイノセントな子どもたちが、勝手に大人の道具にされていいはずがないんですね。
それは血の繋がった親でも、子どもを一人の人間と認めなければいけなくて。
産んでやったから親の思うように行動しないといけないとか、ヤングケアラーのように
テンマが旅のヨハンを追う旅の途中、施設の関係者で里親活動をしている老人が孤児であるディータを虐待していました。
教育に携わる者が「自分の考えるやり方で子どもを矯正し、完璧な作品にする」という傲慢さを感じました。
大人が考える「子どもはこんな風に大人になるべき」を強要するわけですね。
大人の機嫌をとり、大人が望むような行動や態度を強要する。
期待に沿えなければ虐待をされる。
自分で生きる力のない子どもは強い力に頼って生きるしかなく、生きるために従うしかない。
子どもたちが親、社会、大人たちが望むような人間にならないと大切にしてもらえないのも、非常に利己的な発想です。
子どもを一人の人として尊重し、その子らしくのびのびとしていられる時間や空間を周りの大人や社会、そして国が守ってあげなければいけないんだと思いました。
国や社会が子どものあり方を決めて定規やトンカチで矯正するのもよくないよな。
日本も他人事じゃなく、国の教育に大きな思想が入りこんでいます。
子どもや家族はこうあるべき、日本人はこうあるべき。みたいな思想。
その思想はときに歴史を歪ませる。
私たちは常にその脅威を見張り、侵入を防がなければならない。
映画『教育と愛国』
MONSTERの後半はひどいことをしても、罪は許されるのだろうか。みたいなテーマを感じましたね。
ニナ対ヨハンの。
テンマ対ヨハン。
ヨハンは自分が望んだわけではなく、大人たちによって作り出されたモンスターになってしまった。
今からでも、変われるか。やり直すためには許しが必要だったんでしょうね。
最後のエンディングもすごくいい演出で。
他の方の考察でルンゲ警部が「犯人は犯罪の痕跡を残すものだ」だけどこれまでのヨハンの犯行には痕跡が見当たらなかった。
でも最後に彼が去ったベッドには、枕やシーツには飛び出した跡が残っていた。
それは、やっとヨハンが痕跡を残す人間になったという解釈がとても素敵だなと思いました。
モンスターから人に、生き直すことができるんじゃないのかな。
元刑事リヒャルト・ブラウンさんシーズンが渋い
個人的におすすめの回が「CHAPTER.29 処刑」です。
リヒャルト・ブラウン刑事が自身のトラウマを抱えた事件に揺さぶられながらも真犯人ヨハンの謎に迫り、実際にヨハンと接触する機会を得ます。
そこでヨハンは自身の才能を発揮し、直接手を下さずにリヒャルトを処刑します。
この回、雰囲気が素晴らしいんですよね。
画面の色彩、バーでのこもった空気感、ヨハンとリヒャルトのやりとりの
リヒャルトさんが活躍する期間はどの回も洋画の刑事ものを見てるような感覚でした。
渋くて、良い演技をするのリヒャルト・ブラウンを演じたのは有川博さん。
(有川さん、2011年に亡くなられています。MONSTERの放映は2004年)
素晴らしい演技でしたね。
MONSTERに出演された声優さんたちは実力は揃いで、それぞれが様々なバックグラウンドを持った人間味あふれるキャラクターが演者さん方の演技によって作品がすごく奥深いものになったと思います。
作中に出てくる「名前のない怪物」の絵本のお話。
ニナ役の能登麻美子さんの優しい柔らかな声で語られるけれど、悲しいお話です。
ヨハンからテンマへ
「ぼくのなかの怪物がこんなに大きくなったよ」というメッセージを目撃したときのシーンも衝撃的でしたね。
エンディング曲、フジコ・ヘミングさんが歌っている「Make it Home」
フジコ・ヘミングさんといえば先日、ネットフリックスでフジコヘミングさんのドキュメンタリーを観て、彼女の生き方や魂を燃やして生きる姿とても印象に残りました。
フジコ・ヘミングの時間|NETFLIXfa-share-square-o
物語の終わり方についての浦沢直樹先生のインタビュー。
マスターキートンなどで1話完結の話を書いていたけど、毎回あまりに綺麗な終わりっていいのかなと思っていたそうです。
つくられたような終わり方ではなく、本当の終わり方ってなんだろうなと模索するなかで、
MONSTERや20世紀少年のように
「"読者とともに考えながら終わる"というのがひとつの終わり方」
と思って書いたとおっしゃっています。
たしかにMONSTERや20世紀少年のラストは、彼らはその後どうなったのかを読者にイメージさせる素晴らしい終わり方だったと思います。
その後キャラクターたちがどう生きたのか正解がほしくなるものですが、私たちに考えてねとボールを投げてくれているのが素敵ですよね。
原作も読んでいこう。