ビジネスや金融、時代のキーパーソンに話を聞く番組
「CROSS DIG 1on1」を観て、とても腑に落ちる回があった。
高市総理の「働いて働いて働いていく」という発言をきっかけに再燃した
「ハードワーク論争」。
・長時間労働こそが成長を生むのか
・若者はもっと働くべきなのか
・それともブラック企業を助長するだけなのか
この混乱した議論に対して、
「株式会社ワーク・ライフバランス」代表の 小室淑恵さんが提示した答えは、
とてもクリアだった。
必要なのは、体力的ハードワークから「思考のハードワーク」への転換
私はこの意見に、強く賛成したい。
この記事の目次
日本はもう「長時間労働で勝てる国」ではない
小室さんの話の中で、特に印象に残ったのは
人口構造の話だった。
日本はすでに
「人口ボーナス期(若者が多く、高齢者が少ない時代)」を終え、
「人口オーナス期(支える人が少なく、支えられる人が多い時代)」に入っている。
高度経済成長期の日本は、
- 男性中心
- 長時間労働
- 同質的な集団で一斉に大量生産
このやり方で、世界的にも異例な成功を収めた。
でもそれは
「若い労働力が豊富だったから成立していた勝ち方」であって、
今の日本に同じ条件はもうない。
にもかかわらず、
- ベース賃金は抑えたまま
- 残業で帳尻を合わせる
- 「働ける人」に仕事を乗せ続ける
という構造が、いまだに温存されている。
結果どうなるか。
「残業しないと生活できない」
「だからもっと残業しよう」
という、誰も得をしない謎のバカ試合が起きている。
これは経済成長戦略でも何でもない。
ただの消耗戦だ。
本当に伸ばすべき「労働力」はどこにあるのか
この番組で一番「なるほど」と思ったのは、
日本は実は、世界で一番“労働力を伸ばせる余地がある国”だという指摘。
その正体は――
女性だ。
日本の女性は、
- 教育水準:世界トップクラス
- 健康水準:世界トップクラス
- 15歳時点の理科の学力:世界1位
ここまで投資しておきながら、
- 育児
- 介護
- 治療
と仕事を両立しようとすると、
「一度、労働市場から出てください」と言われ、
しかも 戻りづらい。
これは個人の問題ではなく、
社会設計の失敗だと思う。
中途半端な働き方なら「いないもの」として扱う。
その結果、その人たちは支える側から外れ、
支えられる側に回ってくる。
巡り巡って、
一番苦しくなるのは社会全体だ。
「働きたい人だけ働けばいい」は本当に正しいのか
最近よく聞く、
- 働きたい人がもっと働けるようにすればいい
- 労働時間規制を緩和すべき
という議論。
一見、自由で合理的に見えるけれど、
小室さんはここにもはっきりNOを出している。
なぜなら――
それは「現在」と「未来」両方の労働力を同時に壊すから。
たとえば、
- 夫が「もっと働きたい」と長時間労働を選ぶ
- 育児・家事は妻が全て背負う
- 妻は仕事を辞めざるを得なくなる
結果、世帯全体の労働力は 増えるどころか減る。
しかも、子どもを持つ余力もなくなり、
未来の労働力まで失われる。
これは個人の自由の話ではなく、
社会全体の設計ミスだ。
残業ゼロでも増収増益は可能
小室さんの会社自身が、
- 残業ゼロ
- 有給消化ほぼ100%
- 年間50日近い休暇
- それでも約20年増収増益
を続けている。
ポイントは、
- 時間を延ばすのではなく、仕事を分解する
- チームでパス回しできる設計にする
- AI・クラウドを活用して思考に集中する
つまり、
体力でゴリ押しするハードワークではなく、
どうすれば短時間で最大の成果が出るかを考え続けるハードワーク
これこそが、
人口オーナス期の日本に必要な働き方だと思う。
個人の「頑張り」を否定しないために
この話で大事なのは、
- ハードワークが好きな人を否定しているわけではない
- 起業家や挑戦者の努力を否定しているわけでもない
という点。
問題なのは、
個人の体力や事情に依存した働き方を、
社会の前提にしてしまうこと
だ。
「自分はできた」
「自分は平気」
その成功体験が、
次の世代や社会全体を苦しめる構造になっていないか。
今こそ、
- 組織としてどう勝つか
- 現在だけでなく未来も勝つにはどうするか
この視点が必要だと思う。
体力的ハードワークから、思考のハードワークへ
長時間労働で耐える時代は、もう終わった。
これから問われるのは、
- 限られた時間でどう成果を出すか
- 多様な人が参加できる設計になっているか
- 未来の労働力を守れているか
「働いて働いて」では、日本は救われない。
考えて、設計して、賢く働く。
小室淑恵さんのこの提言は、
日本の経済だけでなく、
一人ひとりの人生を守る話でもあると感じた。
私自身、労働者アンケートで
若者の回答として「週休3日制にしてほしい」が上位に来ているという結果を見て、とても納得した。
番組の中で小室淑恵さんは、
「仕事だけでなく、家庭に対しても責任を果たしたいと考える人が増えている」
と話していたが、まさにその通りだと思う。
私たちの世代は、
- 仕事(ワーク)だけを優先してきた父親
- 家庭も仕事も背負い、疲弊していた母親
その姿を、子どもとして見てきた世代だ。
「同じ生き方はしたくない」
そう感じる若者が増えるのは、ある意味とても自然なことだと思う。
また、質の高い労働を求めるのであれば、十分な給与が与えられるべきだとも感じている。
生活が成り立たないから残業する。
ベースの賃金が低いから、副業や時間外労働で補う。
こうした働き方が当たり前になってしまっているが、
本来それは健全な状態ではない。
余計な残業でお金を稼がなくてもいい。
時間内で働き、きちんと暮らしていける給与水準を前提にすべきだと思う。
今は、多くの仕事がPCの前で行われる時代だ。
画面の向こうで、
その人が本当に集中しているか、
誠実に仕事をしているか、
常に監視することはできない。
結局、企業は
労働者の誠実さ(倫理観)と集中力を信じるしかない。
そして、その誠実さや集中力を支えるのが、
十分な休養と睡眠だ。
番組でも触れられていたが、
睡眠が取れている人ほど、他者への配慮や協力行動が増えるという研究結果がある。
よく休めているチームほど、
自然と助け合いが生まれ、
結果的にチーム全体のパフォーマンスが上がる。
だからこそ、
- 十分な時間
- 十分な給与
この2つをセットで与えることが、本当に大切なのだと思う。
そして私は、
制度として男性もどんどん時短勤務ができる社会になるといいと考えている。
産休・育休のような「まとまった休み」だけでは足りない。
家族のことは、
- 子どもの体調不良
- 介護の急な対応
- 心の不調
など、毎日のようにイレギュラーが起きる。
そのたびに、
「家庭のことは自分の役割じゃない」
「仕事があるから無理」
とならざるを得ない構造は、誰にとっても苦しい。
男性労働者が「仕事一筋であるべき」という役割や負担を、
少しずつ手放していくこと。
それは女性のためだけでなく、
すべての人が働きやすくなるための土台になるのではないかと思っている。













