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野原広子さんの漫画「消えたママ友」を読みました。
消えたママ友 野原広子|コミックエッセイ劇場
こちらのサイトで途中まで読むことができます。

第25回手塚治虫文化賞短編賞の選考会で、もっとも支持を集めたそうです。

作品概要
優しい旦那さんとお姑さん、かわいいツバサ君に囲まれてキラキラ幸せそうだった有紀ちゃん。そんな有紀ちゃんがある日突然姿を消した。
保育園のママたちの間ではその話題で持ち切り。噂では有紀ちゃんは男を作って逃げたということらしい。
有紀ちゃんとは仲良しだったはずなのに、何も知らなかった春香、ヨリコ、友子。
しかし、みんなそれぞれに思い当たることがあった。
仲良しママ友の嘘の噂を払拭しようとする春香たち。そして、有紀ちゃんがいなくなった訳を探ろうとするが…。

平凡な日常を襲った時間を巡って、ママたちがじわじわと自分たちの闇に気づいていく。これは、あなたの日常にもおこるかもしれない物語。

消えたママ友 野原広子|コミックエッセイ劇場

不穏なサスペンス…!

すごく可愛らしい作風なんですが、間のとり方や空気感がすごいですね。読んでいる側にもいろんなことを想像させるような間。

私も途中までWEBで掲載されているのを見て、気になってしまい単行本を読んでみました。

下記ネタバレしつつ感想。

仲良しなママ友メンツの一人の有紀ちゃんが、息子のツバサくんを置いて突然失踪したところから始まります。
仲良しだったはずなのに、なんの連絡もなくいなくなってしまった有紀ちゃん。

有紀ちゃんは夫と姑と息子のツバサくんと暮らしていました。
仕事もしていて、家庭と仕事を両立していてみんなが憧れる存在だった。

失踪後、保育園では「浮気して男をつくって出てったんじゃないの」「ひどい母親」といろんな噂でもちきり。
仲良しママ友たち何の連絡もなくいなくなってしまった有紀ちゃんに対して憤ります。
仲良しだったと思ってたのに、何も言わないなんて。
保育園の他の親御さんから「本当に友達だったの?」

ママ友っていってもただたまたま子ども同士が同い年とか同じクラスとかご近所とか、子どもの接点のみでつながる他人と他人の話だし
相手がどんな悩みや苦しみを抱えているかなんてわからないものだと思う。
人って本当に多面的で。
春・ヨリ・友が見てた有紀ちゃんは「ツバサくんの母親としての有紀ちゃん」であり、
それ以外の有紀ちゃんの持つ面を知る機会もなければ、そこにアクセスする許可も持ち合わせていないんだろう。
有紀ちゃん自身が自分の家庭の問題やそこから自分をコントロールできなくなっていたことなど
「知られたくない」というプライドがあるんだなと思ったし、そこにママ友メンツに踏み込んでもらいたいなどとは思っていなかっただろう。

ただ、春ちゃんに「死にたい…」って言われたらどうする?と少し自分の苦しみを外側に出したところが限界なんだろうな。
それは自分のことだと言えない、だって知られてみんなにバカにされたくないし。
だけどぽろっとこぼれ出た有紀ちゃんのSOS、春ちゃんが「限界だったら逃げて良い」と言われたことで背中を押してもらえたんだろう。それで十分だったんだと思う。

ただの他人同士の、子どもが仲良しってだけの接点の他人に、親友でもない他人に、自分の内側を許せる範囲まで広げた瞬間だったんじゃないかな。

女はしばしば、自分の人生の答え合わせをしたがると思う。

自分の選んだ道は正しかったのだろうか。
違う道を選んだこの人は自分よりも幸せなのだろうか、とか。

自分の選んだ人生は正しいのか?と問う女たち。

うちのそろそろ60歳になる母は、40歳手前くらいに、父のDVをきっかけに離婚し、違う男性と再婚し、その男性とも離婚をした。

専業主婦だったときは夫の機嫌をびくびく確認しながら家事をし、メイドや女中のようだった。
今はシングルで、持ち家もなく、子育てやパートをして自分自身の仕事のキャリアを築くことができなかった。
でもとても幸せそうだし、本人は今の生活に満足しているようだ。

近所のスーパーで働いていたときに同い年の女性と出会ったそうで、
その女性は専業主婦で、旦那が嫌いだったけど根性で結婚生活を続けたそうだった。
その女性は持ち家はあるし、そこまでお金に困ることはない。
だけどやっぱり夫の世話を見なければいけなくてつらいと話していた。

うちの母は自由だけどお金がない。
専業主婦だったその女性はお金はあるけど自由がない。
それぞれ互いの人生を「違う選択をしたらあなたのようになるのね」みたいな感じで確認し合ったそうだ。

60歳にもなるとその自分と違う選択した同い年の同性に対しての恨みとか妬みとか負の感情ってだいぶ抜けると思うんですよ。
お互い年もとって、違う人生を必死で生きたわけじゃないですか。
「おー頑張って生き抜いたねそっちの人生も大変だったでしょ〜」って健闘を称えて労い合う感じ。

春ちゃんたち30代前後の女性たちは、高校卒業して18歳、大学卒業してたら22歳。

卒業後の10年間で自分が選んだ人生と、他の女性が選んだ人生や持っているもの(お金・家族・社会的ステータス)とすごく比較してしまいがちというか
「自分の選んだ人生ってこれでいいのかな?合っていたのかな?」って不安に感じるときがあると思うんですよね。

だからこそ、他の人が選んだ人生や持っているものがキラキラして見えたりして。
でもそのキラキラして見てる部分は多面体のただのひとつで、その裏側にはたくさんの悩みやコンプレックスがあるんですよね。

商店を営むお家の嫁になったヨリちゃんが、自分の人生と有紀ちゃんのことを比べて
恵まれているのにどうして子ども置いて出ていくの!信じられない!となるのも分かるし
有紀ちゃんもヨリちゃんのことを羨ましく思っていたというのも、
本当にそれぞれの人生に地獄が存在して、足りないものが目立って、他人が全てを持っているように見えてしまうんだろうなと…

「消えたママ友」は悲しい話ではなくて、(ツバサくんにとっては、ちょっと悲しいことになってしまうけど)
それぞれが選んだ人生は、見えないだけで良いことも悪いことも多面的で自分自身で乗り越えたり、変えていく必要があるけど、
状況は違うけど、応援しているよ、羨ましがったり呪わない、それぞれの形でいいから私たち幸せになろうね、、!ってメッセージを感じました。

富永京子さんと渡辺ペコさんの対談でも語られていますが
「この消えたママ友」はママたちのシスターフッドなのだと思います。

「シスターフッド」というワードの意味をご存知ですか?
シスターフッドとは女性同士の連帯を表す語で、友情と似ているものの利害関係を超えた関係性のこと。
一つのイシューに向かって理念を共有したり、共闘できる、そういう関係のことだと認識されている関係性のことで、元々はフェミニズムの標語として使われていましたが、昨今の#MeTooで再注目されるようになった言葉です。

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馴れ合いじゃなくて、「女性」「母親」で、、って共通する項目があって、それぞれが直面する困難に立ち向かい、離れていても応援しているよ。味方だからねって言えるようなもの。
家父長制とか、嫁姑関係とか、性的役割の押し付けとか、女性の家事・育児労働負担とか…

有紀ちゃん、春ちゃん、ヨリちゃん、友ちゃんもそれぞれ女だから押し付けられたものとかに苦しんでいて、それぞれもがいてるんですよね。
他人が相手の人生に干渉してあげられることってできないし、望まれてないとも思うし。
ちゃんと地に足つけて向き合って、闘わなくてはならないものなんですよね。
でも、本当にしんどいときは逃げても良い。自分の心や体を守るために。
きっとそれは本当の意味では逃げなんかじゃないんだと思う。

それぞれの形で幸せになろう、同胞たちよ!と思える良い作品でした。

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