
「同じように働いているのに、なんでこんなに賃金が違うんだろう」と感じたことはないだろうか。
努力の量でも、働く時間でもなく、「どの産業にいるか」が、手取りの水準を大きく左右している。それをデータで確認してみたい。
先日、中古本で平成27年(2015年)の女性向けの資産形成本を買って読んでいた。
そこで記載されていた情報を眺めていてこれ10年前の数字だけど今はどうなんだろう、と思い現時点での最新データである令和7年の統計を探してグラフにしてみた。
厚生労働省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」から、女性の産業別賃金を平成27年(2015年)と令和7年(2025年)で比較した。
10年間で、どの産業が伸び、どの産業が取り残されたのか。
グラフで見る:10年間の変化
下のグラフは、主要産業ごとの女性の月額賃金(所定内給与)を2015年と2025年で並べたものだ。
全産業で賃金は上昇している。ただし、上がり幅には産業によって大きな差があるのが見て取れる。
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この記事の目次
稼げる産業トップ3の変化
2025年時点で女性の賃金が高い産業は、情報通信業(353,500円)、学術研究・専門技術サービス業(353,500円)、金融業・保険業(339,100円)の順だ。
なかでも注目は学術研究・専門技術サービス業で、2015年の278,100円から2025年には353,500円と、10年で約27%の上昇を記録している。専門性の高いスキルを持つ人材への需要が、この数字に表れている。
情報通信業も313,700円から353,500円へ約13%増。IT系は引き続き賃金水準が高く、女性にとっても有利な産業であることが確認できる。
医療・福祉の現実:ほぼ横ばいの10年
一方で気になるのが医療・福祉だ。2015年の252,600円から2025年の256,900円へ、上昇幅はわずか約2%にとどまっている。
なぜ上がらないのか。理由はいくつかある。
まず、医療・福祉の賃金は市場原理だけでなく、診療報酬や介護報酬といった国の公定価格に大きく依存している。報酬改定がなければ、事業所が自由に賃金を引き上げる余地は限られる。次に、女性比率が高く非正規雇用が多い構造があること。そして人手不足が叫ばれながらも、賃上げよりも人員確保を優先した結果、単価が上がりにくい状況が続いていることも背景にある。
やりがいや社会的意義が高い仕事であることは疑いないが、それだけでは生活は成り立たない。この構造的な問題は、10年経っても変わっていない。
宿泊・飲食・サービス業:絶対値の低さが問題
宿泊業・飲食サービス業は2015年の196,200円から2025年の228,800円へ、増加率でいえば約17%とそれほど悪くない数字だ。しかし絶対値として依然として最下位であることに変わりはない。
228,800円から社会保険料や税金が引かれると、手取りは18〜19万円前後になる。東京・神奈川で一人暮らしをしながら貯金をするには、かなりタイトな水準だ。
生活関連サービス業・娯楽業、サービス業(他に分類されないもの)なども似たような水準に集まっており、「サービス業全般が低賃金」という構図は10年間ほとんど変わっていない。
「産業を変える」という選択肢
データが示すのは、努力や経験を積んでも、いる産業によって賃金の天井が違うという現実だ。
低賃金産業にいる人が取れる選択肢は、大きく3つある。
1. 転職で産業を移る
最もダイレクトな方法。医療・福祉や飲食から情報通信・金融・専門技術系へのキャリアチェンジは、賃金水準が大きく変わる可能性がある。ただし即座には難しく、スキルの棚卸しと準備期間が必要になる。
2. 資格取得で「専門職」ポジションを取る
同じ産業にいても、資格を持つことで賃金レンジが変わることがある。国家資格・業務独占資格は特に有効で、社会保険労務士・宅建・中小企業診断士などは転職でも独立でも活用できる。
3. 副業・複業で収入源を増やす
本業の産業を変えずに、スキルを活かした副業を並行させる方法。賃金構造が変わりにくい産業にいる場合、副業で補完するアプローチは現実的な選択肢になる。
情報通信業は伸びている。しかし“全員が稼げるわけではない”
近年、情報通信業は他業種と比較しても賃金水準が高く、また伸びも見られる分野です。
特に女性の賃金においても、他業種より高い水準で推移している点は注目すべきポイントでしょう。
そのため、「これからはIT系がいい」「情報通信業に転職すれば収入が上がる」といったイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし、ここで一つ注意しておきたい点があります。
同じ業界でも“職種と雇用形態”で賃金は大きく変わる
情報通信業と一括りにしても、すべての職種が高収入とは限りません。
実際には、職種ごとに賃金の差が大きく存在しています。
例えば、コールセンター業務や一般事務などは、比較的未経験でも参入しやすく求人も多い領域です。
一方で、これらの職種は賃金が低めに設定されているケースも見られます。
さらに重要なのが「雇用形態」です。
これらの職種は、派遣社員や契約社員、パートといった非正規雇用の割合が高い傾向があります。
その結果、同じ業界に属していても、
- 正社員かどうか
- 派遣・契約かどうか
といった違いによって、収入や待遇に大きな差が生まれます。
つまり、
「情報通信業に入れば稼げる」というわけではなく、
どの職種を選び、どの雇用形態で働くかによって収入は大きく左右されるのです。
「入りやすい仕事=稼げる仕事ではない」という現実
求人が多く、未経験からでも始めやすい仕事は魅力的に見えます。
しかし、その一方で賃金が伸びにくい構造になっている場合も少なくありません。
特に、
- コールセンター
- 一般事務
- サポート系業務
などは、業界内でも比較的賃金が低水準にとどまりやすい傾向があります。
また、非正規雇用のまま長く働くことになると、昇給やキャリアアップの機会が限られ、
結果として収入が伸び悩むケースも見られます。
だからこそ重要なのは「業界」ではなく「ポジション」
ここまでの内容を踏まえると、重要なポイントはシンプルです。
見るべきは「どの業界か」ではなく「どの職種・ポジションか」。
成長している業界に入ること自体は間違いではありません。
しかし、それだけでは十分ではなく、
- 賃金水準が高い職種か
- 将来的に需要が伸びる職種か
- 正規雇用としてキャリアを積めるか
といった視点で選ぶことが、収入を伸ばすうえで重要になります。
まとめ
10年間のデータを見ると、全体として賃金は上昇しているものの、産業間の格差は縮まっていないことがわかる。
「どこで働くか」は、「どれだけ頑張るか」と同じかそれ以上に、生涯賃金を左右する要素だ。
現在の産業に満足しているなら問題ない。でも「なんかずっと苦しい」という感覚があるなら、それはあなたの能力の問題ではなく、産業構造の問題である可能性がある。
データはそれを、静かに示している。
キャリア選択は“構造理解”がすべてなのかもしれない。
情報通信業は確かに有望な業界です。
しかし、その中には賃金格差という明確な構造が存在しています。
この構造を理解せずに転職してしまうと、
「成長業界にいるのに収入が伸びない」
という状況に陥る可能性もあります。
だからこそ、
業界で判断しない
職種と雇用形態まで分解して考える
この視点を持つことが、これからのキャリア選択では欠かせません。
では、どの職種を選べば収入は伸びるのか?
ここまで見てきた通り、情報通信業は成長している一方で、職種や雇用形態によって賃金には大きな差があります。
では実際に、どの職種を選べば収入を伸ばしやすいのでしょうか。
結論から言えば、
「専門性が高く、代替されにくい職種」を選ぶことが重要です。
賃金が高い傾向にある3つの職種
エンジニア職(開発・インフラ)
システム開発やアプリ開発、サーバー・ネットワーク構築などを担う職種です。
専門性が高く、慢性的な人材不足が続いているため、比較的高い報酬が設定されやすい領域です。
スキル次第で収入が大きく伸びるのも特徴で、経験を積めばフリーランスや副業といった選択肢も広がります。
企画・ディレクション職
サービスの企画やプロジェクト管理を行うポジションです。
エンジニアとビジネスの橋渡し役となるため、全体を見渡す力やコミュニケーション能力が求められます。
経験が必要な分ハードルはやや高いものの、その分収入にも反映されやすい職種です。
データ系職種(分析・AI領域)
データを活用して意思決定を支える職種で、近年特に需要が高まっています。
統計や分析スキルが必要になるため難易度は高めですが、その分賃金水準も高い傾向にあります。
共通しているのは「誰でもできない仕事」であること
これらの職種に共通しているのは、
- 専門スキルが必要
- 人材が不足している
- 代替されにくい
という点です。
逆に言えば、
「誰でもできる仕事」に近づくほど、賃金は上がりにくくなる構造があります。
未経験からでも目指すことはできる
「専門職は経験者しか無理なのでは?」と思うかもしれませんが、未経験から目指すことも十分可能です。
ただし、やみくもに転職活動をするのではなく、順序を踏んで進めることが重要になります。
未経験から入るための現実的なルート
まずは基礎スキルを身につけることがスタートラインです。
例えばエンジニアであれば、HTMLやCSS、JavaScriptといった基礎的な言語や、簡単な制作経験を積んでおくことで、未経験歓迎の求人にも通りやすくなります。
また、最初から理想の職種にこだわりすぎず、業界内でステップアップするルートを選ぶのも現実的な戦略です。
たとえば、
- ITサポートからエンジニアへ
- テスターから開発職へ
- Web更新業務からディレクターへ
といった形で、同じ業界内で経験を積みながら移行していくケースも多く見られます。
非正規からスタートする場合の注意点
未経験の場合、派遣社員や契約社員からキャリアをスタートするケースもあります。
ただし重要なのは、
そこに留まり続けないことです。
スキルを身につけ、実務経験を積み、タイミングを見て正社員やより条件の良いポジションへ移行する。
この「抜け出す前提」でキャリアを設計することが必要です。
ポートフォリオがキャリアを変える
未経験からの転職で最も大きな差がつくのが「実績」です。
- 自分で作ったWebサイト
- 簡単なアプリ
- データ分析のアウトプット
こうした成果物があることで、「未経験」から「実務ができる人」へと評価が変わります。
履歴書や職務経歴書だけでは伝わらない部分を補うためにも、ポートフォリオの作成は非常に重要です。
狙うべきは“伸びる職種と正しい入り方”
情報通信業で収入を伸ばすためには、
- 成長している職種を選ぶこと
- そこに入るためのルートを設計すること
この2つが欠かせません。
未経験でもチャンスはあります。
ただしそれは、
「業界を選ぶだけで満足せず、職種と戦略まで考えた人」に限られる
というのが現実です。














